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認知症に理解を (OKINAWA)

2012年11月8日 - スタッフ公式
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認知症に理解を クリスティーンさん講演
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クリスティーン・ブライデンさん
=3日、名護市・名桜大学ホール
 認知症当事者として世界中で認知症の本来の支援のあり方を訴えるクリスティーン・ブライデンさん(63)=豪州在住=がこのほど初来沖し、「認知症とともに生きる」と題して講演した。過去に「痴呆症」と侮蔑的な名称で呼ばれた認知症の人々は、今も多くの誤解にさらされている実情を報告。社会が認知症当事者の声に耳を傾ける必要性を訴えた。クリスティーンさんの講演要旨を紹介する。
■本人へ支援なく
 私が認知症と診断されたのは1995年。46歳だった。当時は最初の夫と離婚したばかりで3人の子を一人で育てていた。そんなとき医師から認知症を発症していると告げられた。
 支援を求めて認知症協会へ問い合わせをすると「本人向けの支援はない」と。この経験が私の活動のスタートとなった。私たちを意思のない抜け殻とみなし、認知症に関する活動に当事者は一切関わっていなかったのである。正しい支援を受けるため声を上げようと思った。
 認知症について勉強すると、あまり知られていないことに気づいた。高齢化のプロセスと考える人も多く、病だと認識されていない。知識のなさからくる無理解や恐怖で当事者が排除されていた。それが当事者をさらに苦しめていることを訴える活動を進めた。
 発症後夫のポールと出会い、私の行動範囲はぐっと広がった。国際的な認知症ネットワーク(DASNI)を設立。2001年ニュージーランドで開催されたアルツハイマー病の国際会議では当事者として初めて開会演説をした。
 この演説は日本での私の活動のきっかけとなった。当時認知症を公に話す日本人はいなかった。しかし04年京都での国際会議で日本人当事者が初めてスピーチ。当事者による活動が日本で始まった。それにより私たちは徐々に「痴呆症の老人」から「認識機能のある人」と理解されるようになった。
■「脳の休養時間」 
「認知症とともに生きる」とはどんなことなのか。私たちが普段通りにみせかけている裏には大きなもがきがあるのだ。
 私の場合、午前中は比較的うまく過ごせるが、午後には疲れ切ってしまい、はっきりと思考できなくなる。夕方にはすっかり落ち着きがなく「何かをしよう」とせわしなく動き回る。そんな時、ポールはやさしく「リラックスしよう」とうながしてくれる。
 脳の疲れを取るための静かな時間を私たちは「脳の休憩時間」と呼ぶ。視覚・聴覚的な刺激が多いところで長時間過ごすと疲れ切ってしまい、怒りっぽくなってしまう。ポールは、私がどんな苦労をしているか理解してくれる一人。私のニーズを察知し、失敗する前に支援してくれる彼を、私は「イネブラー」と呼ぶ。
 例えば「選ぶ」ことは、選択肢を覚えられない私にとって大変だ。そんな時ポールは選択肢を二つ程度まで狭めてくれる。
 ポールといれば、私自身が「落ちこぼれてしまった」と感じることはない。散歩中に私がふらりと消えてしまっても、ポールは「徘徊(はいかい)した」とは言わない。「ウインドーショッピングに行ってたんだよね」と声をかける。心配を表面上に出さず、私と再会できたことを心から喜んでくれる。
 なじみのないところでは二人で手をつなぐ。私は床にがらがあるとつまずきやすく、階段の上り下りも難しい。認識機能の低下から体が不安定になるためだ。衰えた認識能力では、周囲を素早く把握できない。視界に入ったことを把握するのに時間がかかる。
 最近は単語も文法も間違っていることが多くある。考えを脳から言葉という形で送り込むことが難しくなっている。
■十分な時間必要
 認知症はコミュニケーションの病気。認知症の人が起こすいわゆる「問題行動」は非言語的コミュニケーションである。もしかしたら不快に感じ、苦しんでいるのかもしれない。その多くが見過ごされてはいないだろうか。
 ゆとりをもって接してほしい。話していることを消化するための十分な時間を与えてほしい。さまざまに私を支援するポールは私の人生に意味を与えてくれるイネブラー。家族、友人、医師や介護者がその役割を果たすこともあるだろう。
 今でもオーストラリアでは支援を必要としてる認知症当事者の1割しか、支援を受けることができない。日本でも状況は変わらないのではないか。当事者こそ本当の専門家だ。認知症の治療薬ができるまで、また認知症の人が過ごしやすい社会ができるまでの間、声を上げていきたいと思う。
[ことば]
 イネブラー(enabler) 英語で「可能にする」の意味である「enable」から来ているクリスティーンさんの造語。認知症当事者の残された能力を最大限に引き出し、その人らしく生きることを可能にしてくれるパートナーのことを指す。
沖縄タイムス

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