「若者のため」「広い視点を」埋め立て同意に賛否
「振興策につなげてほしい」「海は漁民だけのものではない」-。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、名護漁協(古波蔵廣組合長)が11日の臨時総会で埋め立てへ「同意」する意思を決めたことに、地元漁民は補償を期待し、移設に反対する人々は幅広い視点での論議を求めた。
総会は午後1時半から約1時間、報道陣に非公開で行われた。会議終了後、組合員は、会場入り口で待ち構える報道陣を避けるように足早で通りすぎ、会場を後にした。正組合員で名護市宮里の70代男性は「15年たっても政府は普天間を動かせなかった。沖縄の安全保障を考えたら辺野古が良い」と同意に賛成の立場。
しかし、埋め立てに反対する宜野座や金武、石川3漁協の漁場に対する影響を問われると、「潮の流れも変わるだろうし漁に影響するだろうけど…」と言葉を詰まらせた。
60代の組合員は「養殖場の整備など若い人たちのために振興策を持ってきてほしい」と期待する。一方で反対票を出したという組合員は賛成多数の結果に落胆した様子。周囲を気にしながら反対理由を口にせず、車に乗り込んだ。
投票では議決権を持つ90人中、2人が反対票を投じた。辺野古で抗議活動を続けるヘリ基地反対協の安次富浩代表委員は「辺野古の海を守りたいと願うウミンチュが2人もいた」と評価し、「海は彼らだけのものではない。名護の動きをもっと広い視点で捉えてほしい」と訴えた。命を守る会の西川征夫代表も反対意見があった点を評価。漁業補償や県への埋め立て申請など争点はまだ続くとし、「今日の結果は一つの通過点」と受け止めた。
専門家「同意ありき」
県内の水産業に詳しい沖縄地域ネットワーク社の上原政幸社長(53)は「生活の場を奪われるだけに、かなりの漁師が反対すると思ったが、2人だけとは驚いた。漁業補償の内容が決まっていないことを考えても同意ありきの臨時総会だったのでは」と分析する。
「沖縄は本土の20~30年遅れで開発が進められ、全体の経済活動優先の中、漁師の意識の中で埋め立てに反対できない状況が続いている」と指摘。漁業経営の厳しさ、漁業権を持つ組合の意向に組合員が反対しづらい構造を説明しながらも「県民の総意に逆行する結論が出たことは残念」と表情を曇らせた。
名護市に住むジュゴンネットワーク沖縄の細川太郎事務局次長(52)は、ジュゴンの混獲防止策を各地の漁協と話し合ってきた。「名護は場所によって刺し網漁を控え、協力的だった。ジュゴンの生息地を奪う埋め立てにも反対してほしかった」と声を落とした。
辺野古周辺では漁民だけでなく一般住民が貝やタコを捕り、戦後の食糧難を乗り切った。細川さんは「自分たちを育ててくれた海を子や孫に残さないという選択。理解できない」と、ため息をついた。
沖縄タイムス