『旅立ちの島唄~十五の春~』
確かな演出力が生むシンプルさが魅力
(C)2012「旅立ちの島唄~十五の春~」製作委員会
沖縄の離島・南大東島に実在する少女民謡グループ“ボロジノ娘”が、モデルになっている。
この島には高校がないため、進学するには島を出なければならない。彼女たちは中学卒業の春、離れて暮らすことになる家族に向けて島唄『アバヨーイ(さようなら)』を披露するそうだ。
本作では、そんなボロジノ娘のヒロインが、中学を卒業するまでの1年間が描かれる。
この映画の魅力は、シンプルさに尽きる。
ストーリーはあくまでも王道で先が読めるし、演出からも野心は一切感じられない。
でも、だからこそ見る側も素直になれるし、素材も生きる。
その結果、作り手のメッセージや自然の美しさ、ヒロインを演じる三吉彩花の伸びやかな四肢の魅力が、前面に押し出されることに。
メッセージとは、“古き良き日本”に対する郷愁、それがまだどこかに残っていてほしいいう願望である。
小津安二郎の映画に出てくるような寡黙な父親と、純真無垢な父思いの娘、プラトニックで初々しい恋、町ぐるみの温かい人間関係etc.。
とはいえ、シンプルさに徹するのは容易なことではない。
技術の裏付けが必要だから。
的確なカメラポジション、無駄のないカット割り、正しい演技指導…監督の確かな演出力が生むシンプルさに彩られた、さわやかなエンディングが素晴らしい!
★★★★☆(外山真也)
【データ】
監督・脚本:吉田康弘
出演:三吉彩花、大竹しのぶ、小林薫
5月18日(土)から全国順次公開、沖縄先行公開中
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外山真也のプロフィル
とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)
琉球新報