食卓を彩る海の幸 八重山の食文化を発信しよう
■新緑の季節に
5月は、青空に向かって薄緑の若芽が勢いよく伸び盛り、テッポウユリやイジュの花など山野に生い茂る生命の美しい輝きが心地よい、1年でもっとも生命力のあふれる季節である。
私たちの住む沖縄は、わが国の最西南端という地理的位置、亜熱帯性気候に恵まれていることなど、きわめて個性的で際立った自然環境を背景に、古典音楽・舞踊などの芸能をはじめ、紅型やミンサーなどの織物、陶器、磁器等の伝統工芸品などすぐれた文化を産み育ててきた。
特に八重山は、ユンタ、ジラバなどの古謡や三線に乗せて厳かにあるいは軽快に歌われる節歌などの音楽文化、身近な食材を最大限に生かした多彩な食文化、古い日本語をほうふつさせる島言葉など、他の地域とは異なった独自の文化が育ってきた。
これからもさまざまなジャンルで多様な文化が育っていく土壌によって新たな文化の創造が期待できる個性豊かな地域である。
食の分野においても、八重山の人々は、身近にある海や山のありふれた材料にいかに息を吹き込むか知恵をしぼってきた。
八重山の先人は、何げなく路傍に生えている草や木などを太陽からの贈り物として、日常生活で大切に利用する独自の食文化を作り上げ、私たちに伝えてくれている。
そのおかげで、今日の人々も、身の回りにある食材にさまざまな工夫を施して日々新しい姿に生まれ変わるよう努力を続けている。
他の地域ではほとんど見向きもされないサラムシル(オオタニワタリ)、アザニヌフクィ(アダンの若芽)、ピィパーズ、パノールィ(念珠藻)などが日常的に食卓を飾っているのも八重山の特色といえよう。
■多彩な海の恵み
ご承知のように、沖縄の食は海から多くの恩恵を受けてきた。魚介類はもちろんのこと、浅瀬にごく自然に生えている海藻類も先人の知恵を受けついで、私たちの豊かな食文化を育んできた。
海藻類は、ミネラル、ビタミン、鉄分、カルシウムを豊富に含み、バランス良く含まれたこれら海の幸を摂取することは、私たちの健康を維持する上できわめて大切なことである。
しかしながらモズク、海ブドウ、アオサなど普段から食卓をにぎわせている一部の海藻類を除いては、種類や分布、量も十分把握されておらず、調理法も確立されているとは言い難い。
例えばリュウキュウツノマタ(キリンサイ)、フノリ、モーイ(イバラノリ)、スーナー、カーナなど美味で栄養価の高い、今が旬の海藻類など、自然が与えてくれた海の恵みをもっと積極的に取り入れる必要があるだろう。
同時に、資源保護の観点から、試験研究機関において、生態
系や養殖技術の研究に本格的に取り組むことが重要である。
また、これらのほとんど知られていない海藻類を活用し、沖縄の特色ある食として引き継いでいくためには、無用とも思える安易な海浜の埋立等をすべきではない。
■新石垣空港の活用
去る3月7日に開港し、人々に大きな期待を抱かせている新石垣空港は、交通体系の基本施設として観光産業や農林水産業など地域産業おこしの中心となるとともに、八重山文化発信の基幹的な施設として整備され、順調な滑り出しをみせている。
八重山には、これまでも多くの人々が白い砂浜や綠あふれる山々など美しく快適な自然環境の素晴らしさに心ひかれて来島しており、郷土の芸能文化や陶磁器、伝統織物などの地方色の濃い個性豊かな文化に高い関心が寄せられている。
また、私たちのゆったりとした南国的生活リズムも、訪れる人々を和ませ魅了している要因である。
新石垣空港の開港は、海や山に静かに眠っている身近な食材を活用した八重山の食文化を発信するまたとない好機であり、より具体的かつきめ細かな対策を行政、民間問わず真剣に取り組む必要がある。
八重山毎日新聞