大学院大、分子解析のベンチャー企業設立へ
大型電子顕微鏡と独自のソフトウェアを使用したタンパク質の
「3次元分子構造解析」を開発したウルフ・スコグランド教授の技術を利用し、ベンチャー企業が設立される
=5日、恩納村・沖縄科学技術大学院大学
9月で開学から1年を迎えた沖縄科学技術大学院大学(OIST)が、世界で唯一の技術を利用し、製薬会社が医薬品開発に必要なタンパク質分子のデータを分析・提供するベンチャー企業を2014年4月にも設立することが11日、分かった。
政府は大学発の科学技術を利用したい企業や研究機関を大学周辺に集め、沖縄の新たな経済振興を図る目的で同大学を設置。OISTや県はベンチャー企業設立が成功することで、企業を集める呼び水となることを期待している。
(銘苅一哲)
企業設立は文部科学省が12年度に開始した大学発新産業創出拠点(START)プロジェクトを活用。東京大学など国内トップレベルの大学の27事業の一つとしてOISTの案が採択され、12年度1500万円、13年度3千万円の開発研究・企業設立準備の経費を補助されている。
企業は同大学がある恩納村内に事業所を構え、学外の経営経験者を社長に5人程度でスタートする予定。
製薬会社へのデータ提供料や目標年収などビジネスプランは現在検討中だが、市場調査など準備を進めるOIST事業開発セクションは「一般的に大手企業を対象としたビジネスの利益は年間数億円単位となる」と説明。
収益の一部は技術の特許使用料としてOISTに還元される。
ベンチャー企業は同大学で構造細胞生物学を研究するウルフ・スコグランド教授(スウェーデン出身)が特許を持つタンパク質の「3次元分子構造解析」技術を応用。製薬会社が医薬品の開発で人間の体内への影響を調べる際のタンパク質の分子観察のため、より鮮明な分子構造のデータを提供する。
製薬会社は通常、タンパク質分子を結晶化し分析しているが、タンパク質は多様な形態のため、結晶化後は分子の一部しか観察できない。
さらに、結晶化そのものが難しいため、製薬会社は結晶化そのものの技術開発にも多くの経費、人材を投入している。
スコグランド教授の技術は結晶化がいらず、ありのままの分子を鮮明に分析できるため、OISTは国内外で市場が十分にあると見込んでいる。
[ことば]
タンパク質の「3次元分子構造解析」技術 タンパク質の分子は大きさ数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートルで髪の毛の太さの1万分の1)。通常の技術は分子を結晶化しX線をあてて分析するが、データが不鮮明なため本来の姿の2割程度しか分析することができない。スコグランド教授の技術はX線を利用せず分子を大型の電子顕微鏡で撮影し独自に開発したソフトウエアで画像を処理することで、さまざまな角度から解像度の高い画像で分子そのものを観察できる。
沖縄タイムス